いしだの知人男性のことです。
彼は口下手で、言葉で正しく表現することが苦手です。
湯のみのことをカップと言って、相手に上手く伝わらないことが度々あります。
役所や銀行の窓口では、発行してもらいたい書類名を言わずに来所理由を長々を説明するので、窓口の担当者は困惑して表情がどんどん曇っていきます。
誰かが正しい言葉で言い直して確認することで、無事に彼の用件が済んでいきます。
しかし彼は無口なタイプではないのです。
要領を得ないながらも、いろいろなことを話そうと言葉を発します。
そんな時、いしだはとにかく彼の顔を見て話を聞きます。
言葉を情報ツールとして使用するならば、役所の窓口のように正確な言葉が必要です。
でも今、彼は言葉を情緒表現のツールとして使用しています。
だから正確な言葉は必要ないのです。
彼に必要なのは「聞き手」ですから。
彼の言葉を受け止める人がいることでコミュニケーションは成立するのです。